胡錦濤の熱弁
自民・公明両党の幹事長に同行して中国に行ってきました。北京は久しぶりでしたが、その変貌ぶりには、ただ驚かされました。到着した北京空港では、3月に完成したばかりの巨大な第3ターミナルの威容が目に飛び込んできます。なんと72機分のスポットがある。そして、ずらりと続くVIPルーム。オリンピックを控えた国の躍動ぶりを肌で感じます。
車で市内に入っても愕きの連続。かつてはなかった高層ビル群が、連続して続きます。整備された道路を走る車の数も確実に増えました。逆に北京の風景だった自転車はかなり減ったようです。こんな交通事情で自転車での移動は危ない。かつて自転車に乗っていた人たちが、今は車に乗っています。それもベンツ、アウディ、BMWなどの高級車が目白押しで、タクシーはワーゲン。石油の消費が急増するはずです。300メートル先が、ほこりと排気ガスで、かすんで見える。マラソンの世界記録保持者が、オリンピックでのノミネートを返上したのも、うなずけます。鼻水が止まらない。
街行く若い女性たちの服装も、格段にカラフルになりました。天安門広場はお上りさんとおぼしき観光客でごった返し、かつて天安門事件で、このコンクリートの上で、多くの学生が圧死した記憶は、どこかへ消えてしまったかのようです。
朝、宿舎の北京飯店周辺を1時間余り、散歩しました。再開発の波は、伝統的な庶民の長屋であるフートンにも及んでいるようで、あちこちで工事中の現場もあり、すっかり立派になったフートンもありましたが、そのすぐとなりには、相変わらず古く、汚い生活の場が、故宮や天安門のすぐ裏手に存在していました。オリンピックがあるとはいえ、すべてのフートンをきれいにすることは不可能だったのでしょう。
さて今回の訪中では、胡錦濤・国家主席をはじめ王家瑞・党中央対外連絡部長、引退した唐家せん氏の後任として対外関係担当の国務委員(副首相級)に就任したばかりの戴けい国・前外務次官、6カ国協議の議長をつとめる武大偉・外務次官と会見しました。もちろんハイライトは来月の訪日を控えた胡主席との会見でしたが、ギョーザや東シナ海ガス田問題など日中間の課題が存在する中で、胡主席が会見時間をオーバーしてまで力説したのが、チベット問題に対する中国の姿勢でした。福田首相が親書で、また伊吹幹事長も、チベット問題に関する情報の公開と、ダライラマ側との話し合いを求めたのに対し、胡主席は次のように語りました。
「情報の開示は善意の提案と理解している。福田首相の忠告も感謝する。私たちも、ずっとそういう方向で努力してきた。3月14日のラサでの事件は、非暴力でも平和的でもなかった。その性質は、赤裸々な暴力犯罪だ。18人の一般人が死亡した。明確な人権侵害であり、社会秩序を脅かす。いかなる政府でも、座視することはできない。私は中国の指導者として、心を痛めている。現地の政府は法に基づいて、自制的に対応した。これが真相だ。この事件と同時期に、20数カ国の在外公館が暴徒に襲われた。ロンドンやパリで、聖火への妨害が起きた。一連の事件をみると、組織的に策謀したものであることは明らかだ。中国国民が納得できないのは、一部の外国メディアが、暴力をふるった側に理屈があると伝えていることだ。オリンピックを口実に中国に圧力をかけるという、オリンピックの政治化だ。こういうやり方は、中国国民に憤りをもたらすしかない。国民は団結を強めている。福田首相はダライラマとの対話を望んでいるが、我々も同じ。これまでダライラマ側と、6回も協議してきた。ダライは中国の4分の1のチベットの独立を図ろうとしている。これまでの協議に実質的な成果はない。対話で成果が得られないから、オリンピックをきっかけに対抗しようとしてきた。いかなる指導者でも、国家主権や領土保全について譲歩できない。しかし対話の窓は開かれている。問題はダライラマ側に誠意があるかどうか。国家分裂やオリンピックの妨害や暴力をやめることが大切だ。中国の立場を日本も理解してほしい」
要するに今回の事件は、オリンピックで海外の注目が集まる機会をとらえて、ダライラマ側が仕掛けた謀略である、との明確な判断です。89年の天安門事件の時も、当時の中国指導部は「学生の行動は反革命動乱であり、断固粉砕すべき」との判断でした。チベットも、天安門も、一部の不心得者が国家転覆を図ろうとした、という論理は変わっていません。当時も民主化を求める学生の行動に理解を示す空気が海外にあり、同様に理解を示した当時の趙紫陽・総書記はすぐに解任され、死ぬまで軟禁される結末となりました。中国は昔も今も、国家の分裂につながるような動きは一切許さない。またそのような動きに寛容な姿勢を示す指導者は、直ちに排除される。趙紫陽しかり、その前の胡耀邦しかり。それくらい巨大な面積と13億の人口、56の民族を抱える国家を統一し続けることは大変なのだと思います。チベット独立の一穴が連鎖反応となり、国家の分裂・崩壊につながりかねないという危機意識。民族の独立によって国家が混迷したケースは、旧ソ連をはじめ、ユーゴやイランなど、あちこちにあります。戴けい国・国務委員がいみじくも「中国にとって何よりも大事なのは、オリンピックの成功と国家の統一だ」と我々に語った言葉は、まさに指導部の本音でしょう。「せっかくのオリンピックを妨害する勢力はけしからん」と、中国国民のナショナリズムはいま、大きな盛り上がりを見せているそうです。いや情報の開示を、いやダライラマとの対話を、と要望する我々の言葉は、この巨大国家の統治に苦悩する中国指導者を前に、評論家じみたものに響きました。
[ 2008年04月16日 ]
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