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GAKU論

カナリアになった日本

 高級官僚にしては、思い切った、おもしろいことを言うなあ、と感じたのは、最近の北畑隆生・経済産業省事務次官の発言。1月25日の講演会で、インターネットを使って株の売買を短期間で繰り返す個人投資家、いわゆるデイトレーダーについて「最も堕落した株主」「バカで浮気で無責任」などと発言し、批判を浴びました。北畑氏は後日、発言を陳謝したそうですが、日本らしい企業経営のあり方を擁護する文脈での発言ですから、私は「万機公論に決すべし」と思います。北畑発言を少々、紹介しますと・・・

 「会社は株主ではなく、社長以下の社員、取引先、地域住民が協力し合って利益を生み出す。他方、堕落した株主がたくさん現れてきた。デイトレーダーは朝買って夜売り、会社のことは何も考えない。本当は競輪場か競馬場に行っていた人が、パソコンを使って証券市場に来た」
 「危ない表現をすると、株主は能力がないという意味ではバカ。すぐに売れるということで浮気者。無責任、有限責任で、配当を要求する強欲な方。バカで浮気で無責任というやつですから、会社の重要な議決権を与える必要はない」
 「日本は企業の存続を重視する企業文化がある。短期的な利益追求の株主と日本の経営者は違って、いい会社はむしろ株主軽視。配当より内部留保重視が実態だ」(注・2月8日朝日新聞の紙面から抜粋、アレンジして引用)


 「バカ」とか「浮気者」という表現が適切かどうかを別にすれば、何も目くじらを立てるほどの発言ではないのは、明らかです。ホリエモンや村上ファンド事件を反面教師として、市場価値を最上のものとするのではなく、日本が本来、大切にしてきた会社の永続性を尊重すべき、との考えを開陳したものです。しかし一方では、この「株主軽視」の長年の経済流儀が、株式市場の停滞をもたらしてきたことも、また事実。そこに噛み付いたのが、産経新聞(2月11日)です。


 「(北畑発言の)真の問題は『慎重さを欠いた』ことではない。経済官僚トップがヘッジファンドなど『外国人投資家』により支配されている日本の株式市場の脆弱さを知らない。株価が低迷するはずだ」

 以下、産経紙面では日本の株式市場と株価下落のシステムを端的に分析しています。要約すると、日本の株式市場の売買シェアは外国人が7割を占め、外国人投資家が日本株売りの主犯。日米の金利差と日本の株価は完全に連動しており、日本の株価は日米の金利差が広がれば上昇し、金利差が縮小すれば下落する。金利差縮小は米国が利下げするときで、円高・ドル安になり、輸出に頼る日本企業の収益減となり、日本株が売られる。金利差で日本の株価動向が容易に読めるのだから、ヘッジファンドにとっては、売買のタイミングさえつかめばよい。「日本株は炭鉱のカナリア」にされてしまった、という論調です。
 そんな状況で、わざわざ日本市場の足を引っ張るような、経産事務次官の発言は、無知すぎる、というわけで、見出しは「株低迷 官僚トップの無知」。最後に「教訓はただ一つ。国内の個人投資家を排除するどころか、もっと個人にとって魅力のある市場にするため、官民総挙げで市場改革に努めることだ」と締めくくり、デイトレーダーといえども、日本市場にとっては大事な存在だと主張しています。
 またぞろ、ホリエモン事件の時に噴き出した、「企業は誰のもの」論争に発展しそうです。そしてそのことは、日本経済の本質の議論につながっていきます。市場原理主義万能だと、株式市場はもっと活発になるでしょう。しかしそれが、地域や働く人などを含めた日本全体のためになるかどうかは疑問です。
 最近、空港の外資規制のあり方をめぐって政府・与党内の議論が紛糾していますが、何に価値観を置くのか、株式市場の問題と同じような対立軸が見られます。さらには、中国製ギョーザ事件に見られるように、「安いから」という市場原理で、日本人の「食」がどんどん海外依存していくと、とんでもない落とし穴が待っていることも、はっきりしました。
 「不易流行」・・・グローバル化の時代に、日本のシステムを国際標準に合わせなければならないものもあるし、断固、守りぬかねばならないものもある。結構、欧米諸国は国益を最優先させて、頑固に守っている部分がたくさんあります。日本だけが、「炭鉱のカナリア」にされてはたまらない。政治が冷徹な国益の議論を進めなければならないと思います。それにしても相変わらず、言葉尻を捉えた批判が多い。「バカ」とか「浮気者」という言葉は不適切ですが、ポイントは企業はいかにあるべきか、という根本の問題であり、言葉のあら捜しに終始し、本質の議論をしない日本のメディアの懲りない体質に、失望を禁じえません。

[ 2008年02月11日 ]


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