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GAKU論

政治家のことば

 きょうの両院議員総会で、福田康夫氏が新総裁に選出されました。事前の予想では福田氏が圧倒的に有利とされてきましたが、蓋をあけてみれば、麻生氏も結構、健闘しました。議員の間で、絶妙なバランス感覚が働いた結果と思えますし、福田氏は圧勝するだけのパワーを持っていなかったとも言えます。今後の国会運営は茨の道であり、総裁選の結果に関わらず、自民党は緊張感を持って、総力戦で臨まなければなりません。
 死んだ子の年を数えても、仕方ありませんが、昨年、華々しくスタートした安倍政権が、わずか一年でこのような結末を迎えるとは、想像だにできませんでした。安倍首相辞意表明以来、様々なメディアで、今回の突然の辞任の分析やら、一年間の安倍政権の性格付けが、かまびすしく報道されています。それぞれ、それなりに伝えられていますし、鋭く分析されてもいますが、私にはどうも、すとんとこない。スキャンダラスな報道は論外としても、各種報道の論点としては、@小泉改革との関係や連続性が不明確だったAばりばりの保守政権にメディアが警戒し、攻撃し続けたB「憲法改正」や「戦後レジームからの脱却」など、大風呂敷を広げすぎ、国民の生活実感とかけ離れたC「お友達内閣」に象徴される人事の稚拙さで、首相としてのリーダーシップに疑問符がもたれた、などなど。いずれも、その通りながら、それだけかいな、と疑問に思ってしまいます。
 たまたま最近、アメリカのユタ大学の東照二教授の著書「言語学者が政治家を丸裸にする」という本を読みました。以前にこの欄でも紹介しましたが、東教授は日本の政治家の言葉を、長期的に精査し、その傾向や特徴を調査し続けています。この本では、小泉前首相と安倍首相の演説の比較を試みています。以下、文章を私流に抜粋して紹介すると・・・
 『小泉は、自分の近況、思いなどを述べて、聞き手をひきつけたところで、ごく限られたトピックに絞り込んで、話を進めている。たとえば小泉は教育に関しては、なんら政策や政見を述べているわけではない。これに対して、安倍は、情報を中心に、できるだけ自分の政見を詳しく述べ、聴衆に理解してもらい、支持を得ようとしている。問題は、どちらのスタイルが演説の目的を達成するために有効かだが、明らかに小泉が功を奏している』
 『政治家は、ことばを使って国民に自分の政策、政見を語りかけ、支持を得ようとする。つまり政治家はことばのプロであるはずだ。わかりやすく、説得力があり、魅力的なことばの使い方をしなければならない。安倍は伝えたい中身をしっかり持っているに違いない。それでもなお、安倍のことばには、聞く人を磁石のように強くひきつけて離さない魅力はなかなか生まれてこないようだ』
 『些細なことに惑わされず、一時的な支持率の上下に一喜一憂せず、巨視的、長期的な視点にたって、自分の在任中にこれだけはなしとげたい、ここを変えたいという強い情熱をもって政治を行っていきたいと思うに違いない。しかし、そのためには国民を説得し、、支持を得ることが不可欠だ。それを可能にするもの、それは、ズバリ、わかりやすく、魅力的な「ことば」ではないだろうか。国民に伝わらなければ意味がないのである』
 オリジナルの文章を、私流に勝手に要約していることをお許しいただきたいが、要するに、安倍首相には自分の理念、信念があるが、安倍氏自身の言葉でそれが、国民には伝わっていない、との趣旨です。この一年間、私が感じてきた「歯がゆさ」も、この点にあります。安倍首相ほど、明確な理念を打ち出して政権をスタートさせた政治家は、かつていなかったと思います。「戦後レジームからの脱却」というテーゼも、色々批判されていますが、いまの日本の憲法も安全保障の枠組みも、戦後の占領体制を60年以上も引きずったもので、日本人自らが考え、再構築しよう、というのが安倍首相の主張であり、そのことを政権の主要テーマにのせた初めての首相です。昨年まではある程度、順調でした。それが造反議員の復党、相次いだ大臣の失言、年金記録問題など、形勢が逆転すると、安倍首相の言葉が、国民にとっては空虚になり、届かなくなってきた。首相が力めば力むほど、空回りするようになった。一国のリーダーと国民との、ことばを介した関係は、本当に難しい。
 さて新たに選ばれた福田総裁。この方も、性格的にシャイな方で、小泉氏のような強烈なアジテーターではない、むしろその対極にいるような人です。そうであれば私は、福田氏の一貫した姿勢である「自然体」で国民に向かってほしいと願います。強烈なアジは望むべくもない。安倍さんのように、力む必要もない。国民に対して、また小沢民主党に対しても、自然体で対峙してほしいものです。そこではじめて、次なる展望が開けるかもしれない。国民にじかに声が届くかもしれない。福田新政権に、私は静かに期待をしています。

[ 2007年09月23日 ]


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